イギリス国内3ヶ所、ロンドン・ガーンジー島・シェットランド島を、俳優の本仮屋ユイカさんが巡り、伝統的な編み物工芸を紹介し、昔からどのように編み物が生活の中で根付いてきたのかを探るような内容だ。

(NHKオンデマンド(有料)で視聴可能)
引き継がれる手仕事
その土地の伝統を引き継ぐという意味で、とても興味深かったのが、ガーンジー島とシェットランド島。
ガーンジー島で昔から作られているガーンジーセーターは漁業など職人用に仕事をしやすいような仕様になっている。
単色で作られるものが多く、一見とてもシンプルなセーターに見えるのだが、実は隠れたところにさまざまな工夫がされている。首周り、肩周りのようなところには動きやすいように独特なマチが入っていたり、油分のある羊毛で水をはじいたり、前後どちらにしても着られるようになっていたり、職人が使うからならではの工夫がされている。編み模様も家庭によって異なるようだ。こうなると、セーター自体が自分のアイデンティティになる感じなんだろうなと感じた。
シェットランド島ではフェアアイルニットが昔から作られている。
ガーンジーセーターとは対照的に、さまざまな色で幾何学模様が編み込み模様になっているようなニットだ。そもそもは羊毛自体の色を使って編まれていたようだが、ナチュラルな色でも白や茶の濃淡にバリエーションがあり、色の種類の多さにびっくりした。曽祖母から代々受け継がれている伝統的な手法や用具を紹介していた。時が経つにつれて、糸の色彩も豊富になり、絵の具のように多くの糸が作られている。その中で、幾何学模様のパターンは同じだが、新たに色とりどりのグラデーションのあるデザインを作り出したり、ステンドグラスのようなデザインになったりとその土地の風景から閃いたさまざまな色合いがデザインされるようになった。
どこの土地のあみ人も、編むこと自体をとても楽しんでいて、その時間を大事にしていた。この感覚はなんとなく理解できる。
編みびとのコミュニティ
番組内ではロンドンのとあるNPO活動が紹介された。市内のある場所では、自由に入って、大きな机の上に山積みされた毛糸を使って、みな好き好きに20cm四方の編み地を作成する。棒針でもかぎ針でもいいし、単色でも複数の色を使ってもいいし、編み地のデザインも自由。とにかくみな20cm四方の編み地をつくる。最終的にはその四角の編み地をつなげて、ブランケットに仕立て、ホームレスなどに寄付をするという活動だ。
このシーンに私はとても心が踊った。誰でもいつでも参加できて、途中でやめても続きは誰かが進めてくれる。それに、編んでいる人たちが皆、とても穏やかな表情をしていて、楽しそうなのだ。こんなふうに知らない人たちと編み物でつながりながら、同じ目的のために時間を過ごす、というこの場所の存在がとても羨ましくなった。こんな感じで編み物で人と繋がるのは素敵なことだと思う。
さらに、この団体を調べてみた。イギリスのcraft_forwardという団体だった。この団体の目的はホームページで、こんな風に紹介されていた。
Our aim is to disrupt the current elitism within the arts and crafts world and open creativity to all through workshops with a clear social impact. We run workshops to help communities and individuals learn new skills and create positive change.
(私たちの目的は、工芸の世界に存在する現在のエリート主義を打破し、明確な社会的影響力を持つワークショップを通じて創造性をすべての人に開くことです。コミュニティや個人が新たな技術を学び、前向きな変化を生み出すためのワークショップを運営しています。) Craft Forward – Creative experiences for allWe run workshops to help communities and individuals learn new skills and create positive change. Established in 2021, C...
都内でも少しずつニットカフェのような場所がちらほら増えてきてはいるのだが、編み物をしてつながる場所がまだ少ない。いつか人と繋がることができるハブのような空間を作ってみたいなと、この番組を見て思った。
ただ編むという同じ目的で集うことができ、大きな卓などを囲んで繋がりを暗に感じられ、黙々と作業する瞑想のような時間も体験できる。見知らぬもの同士で集まっていても談笑している。もちろん編み物をしない人も来ていいのだが、基本的にここに来れば編み物ができる、そんな空間。
そんな空間の中で、どんなことができるのか、想像しだすと、とてもわくわくする。


